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『この世界にようこそ』ができるまで その5 [book]

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『この世界にようこそ』ができるまで その5
対談 広瀬裕子(作者)× 藤原康二(編集)


デザインされていない本

藤原 今回、僭越ながら編集者の私がデザインを担当させていただいたんです。
広瀬 デザインもよくて。本当に何から何までありがとうございます。
藤原 正直、私がデザインするの不安でしたよね。
広瀬 はい(笑)。でも、何の問題もありませんでした。
藤原 アリシアさんからもデザインを褒めていただき、すごく嬉しかったです。特に、カバーと表紙を褒めていただきました。カバーに使った絵がアリシアさんから届いた瞬間、この絵を表紙にしようと思ったんです。広瀬さんの文章から光を感じていたのですが、この絵を見た瞬間に、その光をより強烈に感じたんです。それもあって、表紙まわりに金色を使ってみようと。
広瀬 この絵、よく見ると不思議ですよね。ちょっと太陽の形もいびつだし。
藤原 星と月と太陽って、広瀬さんが指定したんですよ。
広瀬 そうでしたっけ。すっかり忘れている。
藤原 昼間に出ている太陽と、夜に出る星と月をどうやってアリシアさんは描いてくるのか、楽しみにしていたページでした。表紙にカバーを付けるので、同じ絵でもカバーを取ったら夜の風景が出てくるデザインにしたら、表紙まわりで1日の始まりから終わりまでを表現できると思い付きました。
広瀬 素晴らしいです。これを見た時に、藤原さんちゃんと考えているんだとわかった(笑)。
藤原 ちゃんと考えていますよ(笑)。
広瀬 そういえば、デザイナーさんに頼まないのは、初めてのことでした。
藤原 デザイナーさんにお願いすることも考えたのですが、今回はアリシアさんとのやりとりもあったので。広瀬さんからの希望を私がまとめて、その文章を英語にしてアシリアさんにメールしていました。アリシアさんへの英文訳は、意図がしっかりと伝わるように翻訳家の方にお願いしました。そして、アリシアさんから来たメールを私が日本語にして広瀬さんにお伝えする。そのやりとりをしている私がデザインするのが、2人の意図を理解して進めることができると思い、デザインをやらせてもらえないかとお願いしました。
広瀬 そうだったんですね。
藤原 それと、広瀬さんの文とアリシアさんの絵を見て、デザイナーの顔が見えない本、デザインがされていないような本にしたいと考えたのです。『地球の上に生きる』は文字も全てアリシアさんの手書きで、デザイナーの手は加わっていない本なのですが、そのイメージもありました。
広瀬 デザイナーさんの色って、どうしても出ますね。
藤原 その色を消した本にしたいと思ったんです。
広瀬 活字の組み方もきれいで、文字の大きさも読みやすくて好きです。
藤原 小さな子どもでも、お年寄りでも、誰にでも読みやすい文字の大きさにしました。
広瀬 ベーシックなデザインに仕上がりましたね。でも、結局はそこに戻っていくと思います。


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カバーを外すと夜の風景に




■本にする楽しみ

藤原 今回はカバーと表紙、帯に金色を使っているので、その発色がきれいに出るように気をつけました。
広瀬 金色は濃くなると黄土色のようになってしまうけれど、きれいにできましたね。
藤原 特に表紙の夜の風景が一番大変でした。紺色の上に金色を載せるのですが、最初紺色が十分乾く前に金色を印刷したら色が沈んでしまって上手くできなかったんです。十分に乾かしてから印刷しようと、紺色部分を刷ったものを5日間置いてから金色を印刷したんです。
広瀬 なかなか大変だったんですね。表紙もきれいに金色が出ています。
藤原 かなり修正ねばりましたよ。印刷所の人には面倒だなと思われたはずですが。金色の前の、紺色の調整も大変でしたね。真夜中の色にしたかったのですが、私が微調整の際に「ミッドナイトって感じで」とよくわからない説明をしたので、「具体的に何色を濃くして欲しいか言ってください」と言われてしまいました。
広瀬 こういう細かい部分は、読者の方には伝わないところだけれど、やっている当人たちにとっては一番楽しいところではありますよね。
藤原 でも、本にする楽しみはこういうところじゃないですか。
広瀬 私はデザインが上がってくる時が一番楽しみです。今回、藤原さんがメールではなくデザインしたものを出力して持ってきてくれたのですが、実際のサイズで出力して、のり付けして製本してきてくれたのが良かった。それをやってくれる人が少なくて、いつもは自分で出力してやっています。
藤原 今回、ページ数も多くなかったので。もし100ページ以上あったら、のり付けまではしていないですよ。
広瀬 私はページ数が多くてもやるんですよね。
藤原 近年はデータでデザインの確認のやりとりをすることが多いのですが、パソコンの画面で見ていると、どうも頭に入ってこないので、いつも原寸サイズに出力して確認します。
広瀬 私もそうです。絶対に原寸サイズの紙にしないと、内容もそうだけど手触りがわからない。
藤原 ちょっと話変わりますが、私は電子書籍だとどうも読んでいる気がしないんです。『この世界にようこそ』はアリシアさんの絵が上がってきた時に、本でしか表現できないものにしたいと考えました。だから、いつも使っているiPad miniよりも大きな本にしたいと思ったんです。
広瀬 そういえば、最初の打ち合わせの頃に、いつまで紙媒体で本が出せるかわからないという話をしましたね。
藤原 広瀬さんにいつまで紙の本が出せるかわからないと言ったら、即座にそんなことはないと否定されました。
広瀬 でも、それから紙の本のことをより真剣に考えるようになりました。
藤原 近年CDが売れなくなって、ミュージシャンの人たちがライブ活動に力を入れるようになってきました。コンサートホールやライブハウスだけではなく、カフェのような場所でもライブが開催されるようになってきました。そういう小さな会場でライブ活動を熱心にされている方の演奏を見ると、音源では伝わらない生の良さを実感するんです。データでは伝わらないものがあることを教えてもらいました。それからは、紙の本として仕上げることをより大切に考えるようになりました。さらに、それを実際に感じてもらえるようにトークイベントや原画展をこまめにやるようにもなりました。
広瀬 そのお話を聞いて、1冊1冊を大事に仕上げていきたいと思うようになりました。以前ももちろん丁寧に仕上げていたのですが、その重みの質が変わったような気がしています。




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■『この世界にようこそ』はギフトのような本

広瀬 この本が作れて本当に嬉しいです。書き手として本を出すようになってから20年経ちましたが、自分の中でちょうど一周した気がしています。最初に本と関わりたいと思った時の気持ちに戻って、素直に書けました。
藤原 「書いた」ではなく何か、違ういい表現していましたよ。
広瀬 あ、そうだ。書いた感じではなく、自然に文字が降りてきました。だから、書いた後に読み直して、自分はこういうことが書きたかったんだということに驚きました。『この世界にようこそ』の制作を通じて、あらためて本を作る楽しさを実感できたし、私は本が好きなんだということが確認できました。好きなことって、どれだけ大変でも大変だとは思わないものです。後から思い返すと大変だったかも、とは思うのですが、でも好きなことなら、そんなことは問題なくて。その感覚が、久しぶりに戻ってきました。しかも、ずっと大好きだったアリシアさんと一緒に本が作れたことは、私にとってはギフトのようです。

おわり


■その1はこちら↓
http://millebooks.blog.so-net.ne.jp/2015-05-12-1

■その2はこちら↓
http://millebooks.blog.so-net.ne.jp/2015-05-13

■その3はこちら↓
http://millebooks.blog.so-net.ne.jp/2015-05-14

■その4はこちら↓
http://millebooks.blog.so-net.ne.jp/2015-05-15


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